これまでクリーニングに関しての様々な事例や、感じた事・思うことを言いたい放題で紹介してきました。
今回は事例とは違うのですが、原点回避するような出来事がありました。私事になりますが、しばらくお付き合いください。
初めて来店されるお客様でした。
まだ大学生でしょうか、爽やかな青年でしたが、少し羽目を外し過ぎたのでしょう。
白いワイシャツの前面が、赤や青のペイントで染まっています。流石にこの状態だと、受けてもらえるクリーニング店が見つからず、ほとほと困っていたそうです。
確かに、固着した顔料を取り除くのは、有機溶剤も使用しなければなりませんし、また手順を間違うと、逆に落ちにくくなったり固着したりします。
この様なクリーニング依頼は忘れたころに、時折持ち込まれるのですが・・・。その度に、脳裏に思い浮かぶ思い出があります。
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電車内や人混みなど
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宅配・保管クリーニング(ラクリ)
それは、もう20年以上も前の話で、私の父がまだ現役で仕事をしている頃の話です。
私も、この仕事についてまだまだヒヨコで、親に頼って仕事をしていました。
ある日、とあるイベントで、ウエディングドレスにペンキをぶっかけたそうで、そのクリーニング依頼がありました。そしてナント、同じ様な状態のものが、2着もありました。落ちる範囲でいいから、クリーニングしてくれと依頼されました。
時に当時、私の店では、好まれざる転機を迎えていました。
父に胃がんが見つかり、入院・手術となり、大黒柱を失い店の運営は推進力を失いました。
2カ月ほどで何とか父は退院し、自宅療養しておりましたが、それでも店を心配してできる範囲で仕事をしておりました。
そんな時に、このウエディングドレスの依頼がありました。それを父が引き受け、時間をかけて全体のしみ抜きをしました。そして1着は何とか、キレイに落としました。
そしてもう1着ですが、急ぎではないので、また体調の良い時にしみ抜きをすることにしました。
ところが急遽、2回目の入院を余儀なくされました。ガンが転移して、末期の状態でした。その後、帰ることはありませんでした。
残った1着のウエディングドレスは、勿論私が処理しなければなりません。頼りない知識と、父の見まねで懸命にしみ抜きしましたが、結局はペイントを落としきることができませんでした。
しみ抜きを諦めたのは、「無理をしなくていい」の母の一言でした。
今から思えば父のしみ抜きは、有機溶剤と界面活性剤で、ただひたすらブラッシングして落とす、精神至上主義的なしみ抜きだと思います。
理論と手順を踏まえれば、今なら大幅に薬剤の使用量を減らせて、人体に対しての影響もかなり軽減できるでしょう。
しかし、当時しみ抜きを諦めたことは英断だと考えますし、諦められた母の一言には感謝しております。
人それぞれ技量がありますし、それに反映してお店が請け負える仕事も差があります。
今回、このペイントのワイシャツも、お断りされたお店の判断は正しいと思います。但し、一つ気になったのは、あるお店が常軌を逸した価格を提示し、その青年がけんもほろろにされたと聞いたことです。
そのお店は、クリーニング業界でもリーディングカンパニーの一端です。こんなことが繰り返されると、消費者がクリーニングから離れていく一方です。
我々業者は、己を知り謙虚になる必要があると思います。
しみ抜き自慢を謳い、キャリアを積むと、ごめんなさいが言いにくくなりますが、それも戒めなければならないと思いますし、自らにも問いかけます。
そして消費者の皆さん、クリーニングさんの技量やサービスはお店によって全く違います。
大変にお手間でしょうけど、主治医のようなクリーニング店を、探してでも是非見つけておきましょう。そしてクリーニングでも、インフォームド・コンセントは大切ですし、セカンドオピニオンも必要な時があると思います。
確かに数は少ないかもしれませんが、それでも皆さんのご期待に応えられるように、日々勉強して、そしてクリーニングの相談にも親身にお答えする、クリーニング店はあなたの地域に必ず存在するでしょう。
私も初心を忘れずに、勤しみたいと思います。
(文/Takeshi Tsukiyama)
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