とあるシミ抜きの現場より
そこは、通常のしみ抜きでは対処できない、高難度のシミに侵された衣類などが、近畿一円はもとより全国から集まるところです。
しみ抜きの手練れがさじを投げたようなしみ抜きが集まるだけに、難解なものや、摩訶不思議なシミなども見かけることがあります。
この話は不思議というより、高難度のシミ抜きの話です。
下に続く
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それは白のカシミヤのセーターでした。シミはカレーだそうです。
これも幾人かの専門家がしみ抜きをしたそうですが、何故か黄色いシミが落ち切らず、こちらに回ってまいりました。
とりあえずの処理方法として、通常のカレーのしみ抜きを、丁寧に通り丁寧に処理しましたが、確かに黄色いシミが残ります。山吹色ではなくレモン色なので、一見するとカレーのターメリックの色素が在留しているように思われます。
ターメリックの色素ならば、過酸化水素と呼ばれる酸化剤で酸化漂白すれば、色素は発色をなくしシミが消えるのですが・・・。しかし、それが全く反応がありません。この場合いくつか考えられるのは、まだ脂分が残っていて、酸化反応を阻害する、もしくは脂分が酸化して脂肪酸が発生している。または、過酸化水素が過剰反応して、黄変している。
ただし、今回のシミの場合、幾人かがしみ抜きしておられるので、この黄色いシミがどのように状態であるかがわからないのです。こうなると暗礁に乗り上げ、御多分の洩れずお手上げ状態です。
しかし、このような事態にこそ、発想の転換が必要です。すべてを疑うことから、突破口を開いていきましょう。
改めて考えると、この黄色いシミがターメリックのシミであると、決めつけているのは何の根拠があるのでしょうか。そう考えれば、シミの色だけで決めつけていますが、レモン色の黄変などはオーソドックスなシミで、ターメリック以外にいくらでも存在します。
そう考えた場合、カレーの材料で色素を持ったものや、酸化反応で黄変するものなどいくらでもあります。
例えばカレーにトマトやココアを、入れる方もおられるでしょう。そうなれば有機酸系の色素で、アルカリで固着する可能性もあります。また、たんぱく質も疑うべきでしょう。ミルクガゼインなどのたんぱく質は、たんぱく繊維であるカシミヤに付着すると、完全に除去は難しいです。それか何らかの原因でシミになる可能性もあります。
暗礁に乗り上げたと思いきや、疑たがって考えれば、こんなにもやるべきことが見つかりました。
今回の様な事例があるごとに、しみ抜きとは何と奥が深いのかと思います。
しみ抜きは、レシピ化することは不可能です。手順通りすれば、必ずシミが落ちるなどということはありません。大胆な仮説を立てて、それを地道に立証して、結果を得る化学と同じです。
このカシミヤのセータの結末ですが、解離性の強い酸を用いてよくすすぎ、たんぱく質分解酵素で反応させて、そののちに過酸化水素で漂泊すると、ほとんどシミが落ちました。
仕上げに、ブルーの色素をシミに掛けて、黄色の色素を中和しました。
お陰様で、きれいに仕上げて納品できたそうです。
(私は助言はしましたが、実際シミ抜きにタッチしておりません)
(文/Takeshi Tsukiyama)
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