シミ抜きにおいて、漂白剤は非常に便利なものです。また、最近はその使い方も広く紹介されておりまして、皆さん中には、漂白剤をシミ抜きに又お洗濯にと、上手く活用されておられる方もいらっしゃいますね。
少し前の話になるのですが、「洗濯した際に失敗して、白の綿シャツと色柄ものの綿パンツに、他のものからの染料が色移りしてしまった」と相談されました。
早速、お預かりしてシミ抜き&クリーニングをいたしました。
そして後日、引き取りに来られた際の話です。
下に続く
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宅配・保管クリーニング(ラクリ)
お客様
「キレイに染料が落ちていますが、漂白されたのですか?」
カウンター係
「いえ、今回のシミ抜きは、漂白剤を使用しておりません。」
お客様
「ええっ(@_@)」
実は、白の綿シャツの方は、ご自分で漂白剤を試されたようなのです。それでも全く落とせなかった。更に、このお客様はとある化学メーカーにお勤めで、名刺には理学博士とありました。
化学の知識を持っておられますので、市販のものでも漂白剤の成分は変わらないこともご存じです。同じ成分で落とせたのなら、何かコツでもあるのかと思われたようです。
ですから、今回どのようにして染料を落としたか、そのノウハウに興味を持たれたのですが、このシミ抜きでは、漂白剤を使用していないことに驚かれました。
そもそも漂白とは、酸化反応もしくは還元反応にて、シミの発色を壊すもので、シミそのものの除去ではありません。シミ抜きにおいて、まずはシミの物質の除去を目指します。
私の場合、染料の除去方法は、主に2種類ほどあります。
第1は、繊維内に入り込んだ染料を、分子レベルで分散させて発色を抑える方法。浸透性能の高い界面活性剤を使用し、染料を繊維内から動かして分散させるのです。
染料は、沢山の分子が集まって発色します。ですから、分散させてバラバラにすれば、強く発色しません。ともすれば、そのまますすぎ落とせば、シミそのものを落とせます。
しかし界面活性剤だけでは不十分なので、ある薬剤を使用して繊維を軟らかくします。
繊維には結晶領域と非結晶領域が存在し、染料などの分子レベルのシミは、この非結晶領域に入り込みます。繊維を軟らかくするとは、この非結晶領域を拡大して、染料を動きやすくするのです。
これは、いわゆるガラスの転移点で、通常は温度を上げてこの作業をします。今回のシミは、これを薬剤で行います。薬剤で行う利点は、長時間ガラスの転移点を下げたまま、界面活性剤を反応させられることです。
第2は、カチオン系(陽イオン)界面活性剤にて、染料と繊維の結合を切り離す方法。
通常の染料が洗っても落ちないのは、染料が繊維と結合しているからです。今回の様な色移りの染料でも、若干の結合が予測され、そのために落ちにくいシミであると言えます。
繊維(綿)と染料(直接染料)の結合は水素結合で、繊維がマイナス(OH)の電荷をもっています。ここにプラスの電荷をもった、洗浄性能の高い界面活性剤を使用すると、染料と繊維との結合が断ち切られ、染料が落ちやすくなります。
今回は第1の方法のみで、染料のシミ抜きは完了できました。ただ、2日ほどかけて、ゆっくりとシミの染料を分散させましたので、かなり手間が掛かりました。
今回は漂白剤は使用しませんでしたが、ケースによっては勿論のこと使用いたします。但し、それは、シミの染料を出来るだけ取り除いた、最終工程で使用するようにしております。
プロのシミ抜きは、薬剤の知識と化学的な知識に加え、経験と積み重ねた実績が必要です。何故なら、今回一つは色柄もののシャツでしたが、シミ抜きの祭に、このパンツの色柄にも影響を及ぼすとも限らないためです。
お客様は、興味深い話が聞けて満足されましたが・・・・如何でしょうか。今回は難しい話でしたが、シミ抜きの現場の一面を垣間見られたと思います。
(文/Takeshi Tsukiyama)
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