「落ちにくいシミは、実は水溶性が多い」とある高校の被服科の授業に、出張講師で呼ばれた際の話です。
事前に授業内容の確認のために、授業で使用する資料を渡されました。そして、その中につぎのような記述がありました。
下に続く
電車内や人混みなど
マスク着用を気にする場面など「エチケット用」として最適
呼吸がしやすく、蒸れないクールエアマスク「Be*AIR」
※その他 黄ばみなど化学変化した汚れがあります。
これを読んだときに「うーん・・。間違えやすいところかな・・。」と思いました。
タイトルにあるように水溶性=落ちやすい汚れには疑問があります。
(授業は許可を得て、私のやりやすいようにさせて頂きました。)
衣類のシミになって、落ちにくいランキングをしたとするとどうでしょう。
血液・墨汁・絵の具・赤ワイン・汗の黄ばみなどは、トップ10の常連だと思います。
おおーい、なんてこった・・(^_^;)、全部 水溶性じゃないですか。
水溶性って聞くと、砂糖や塩を思い出しますね。これらは速やかに水に溶けます。でもね、飴玉って、直ぐには水に溶けませんよね。
例えば、フライパンに砂糖と水を入れ煮きってカラメル状にします。それに更に火を掛けて焦げつかせると、糖質なのにカチカチになって、水にも洗剤にも溶けずに大変なことになります。水溶性には、簡容性から難溶性モノまで、幅が広いと考えてください。
衣類に話を戻しますが、水溶性の汚れでシミになって落ちにくい理由の1つとして、繊維内に汚れが入った後、何らかの理由で固まって繊維に固着するケースが在ります。
例えば血液などは水に溶けますが、繊維に付着して時間が経過したり、何らかの理由で高温になったり、アルカリにさらされたりすると、タンパク質が凝固して簡単には水に溶けなくなります。
更に申せば黄ばみなども、水溶性である低級脂肪酸やタンパク質等が関与して、時間を掛けて酸化や還元の変化をして発生すると言えます。
これら全てに言えることは、もともとの物質から何らかの理由で変化してしまい、結果的に衣類に付着したシミとしては、非情に落としにくいモノになるものがあると言うことですね。
(墨汁など、変化しないでも落としにくいしみになるモノもあります。それはまたの機会にします。)
これらのシミを適切に処理できれば、問題なくシミ抜きできるのでしょうけど、1つ間違えると大変に落としにくいしみになることも御座います。ですからシミ抜きのプロが「シミがついたら安易に処理せず、速やかにシミ抜きに出してください。」と申すのはそのためです。実際にシミ抜きは、繊維や染色の知識も必要になりますから、シミ抜きのプロは大変な勉強をしておられます。
最後に、お洗濯の観点から、汚れについて考えてみると・・・。
普段着に付着する汚れに多くは、水溶性と油溶性の双方の雰囲気を持っているモノが多いです。
例えば、汗に混ざる皮脂成分も、中性脂肪や脂肪酸にはグリセリンやカルボン酸などの水に溶ける成分が結合しています。
更に、水溶性の汚れには簡易溶なモノから難溶なモノまであると認識して頂ければ、お洗濯ってなんて奥の深いモノかと、あらためて洗濯の世界観を持って頂けるのでは無いでしょうか。
……余計ややこしいかな・・・・・。
(文/Takeshi Tsukiyama)
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